モータースポーツの世界最高峰といえば、FIA フォーミュラ1(F1)。F1は1950年代に始まった歴史あるチャンピオンシップで、FIAが統括する7つの世界選手権のうちのひとつ。世界中のフォーミュラレースの最高峰として開催し続け、世界中のレーサーの憧れのカテゴリーであり、世界中のファンを熱狂させてきました。
そんなF1ですが、Netflixでのドキュメント番組が起爆剤となり近年急速に人気が高まっています。特に北米では新規のファンが急増中。比例して、開催を希望する国や地域も世界中で増えているため、今では年間20戦以上のスケジュールが組まれることは当たり前に。今季は過去最高の24戦が開催されます。
■レッドブルホンダが圧勝した23年シーズン
そんななか、他を圧倒するチームがここ数年の選手権を牽引しています。そのチームは「オラクル レッドブル レーシング」。ホンダが供給するPU(パワーユニット)を搭載した、現チャンピオンチームです。2023年は、開催23戦中22勝をマーク。まさに圧倒的な強さでチャンピオンシップを獲得しました。
強さの秘密は、ほかのチームよりも一歩進んだエアロダイナミクス性能と、天才ドライバーのマックス・フェルスタッペンを擁している点です。F1は22年に大きく車両規定が変わり、外観が様変わりしました。それまでは細かなフィンや突起が満載だったF1カーの表面はスッキリし、車体の下に流れる空気でダウンフォース(グリップを得るために車体を押し付ける空力性能)を得る、グラウンドエフェクトを中心にするボディデザインとなりました。
22年の新車両規定開幕戦には当時の3強、レッドブル、フェラーリ、メルセデスがそれぞれの空力解釈を反映させたシャシーをデビューさせましたが、蓋を開けてみればフェラーリがわずかに勝負に持ち込めたくらいで、レッドブルが圧勝でした。逆にメルセデスは箸にも棒にもかからないほど低迷。マシン開発に完全に失敗し、後塵を拝することになります。
レッドブルは新規定を完全に掌握し、チャンピオンシップを22年、23年と連覇。旧規定の21年も合わせれば3連覇している絶対王者として、今やどのチームからも標的にされる存在です。ミスの少ないドライビングで他を圧倒したフェルスタッペンも、ドライバーズタイトルを3連覇しています。
■今季もレッドブルを中心に展開!?
レッドブルが過去2年の選手権を圧倒するなか、24年シーズンがスタート。レッドブル以外の9チームすべてがレッドブルの空力コンセプトを模倣してきたため、20台中18台がほぼ同じようなボディワークという奇妙なマシンラインナップとなりました。そんななか、レッドブルだけはまた違ったエアロダイナミクスを採用。それは、かつてメルセデスが大失敗してしまったコンセプトに近いものでした。空力競争をリードするレッドブルらしい、大胆な選択です。
シーズンは開幕から3戦まで終了(24年3月現在)。第1戦バーレーン、第2戦サウジアラビアとレッドブルが1-2で制しましたが、第3戦オーストラリアは、フェルスタッペンがレース序盤にブレーキトラブルでリタイア。同僚のセルジオ・ペレスもマシントラブルで低迷し上位争いに絡めず、フェラーリが久々の1-2フィニッシュを達成しています。
レッドブル以外では今季一番速さを見せているフェラーリが勝ちましたが、レッドブル&フェルスタッペンがリタイアしていなければ勝てなかったかもしれません。懸念されていたシーズン全戦制覇だけは免れましたが、依然としてレッドブルの圧倒的な速さは健在です。
この先シーズンが進むにつれて、各チームがF1カーをアップデートしてきます。次戦は初の春開催となる日本。鈴鹿サーキットに桜が咲き乱れるころ、F1サーカスはやってきます。ウワサでは、レッドブルが鈴鹿に今季マシンの本来の姿であるアップデートを持ち込むとか持ち込まないとか。このアップデートでレッドブルがますます加速するのか、逆に失速してしまうのか。今季の展開が楽しみになりそうです。
■角田裕毅の進化にも注目!
日本人ドライバーの活躍も気になるのが、日本人ファンのサガ。現在はレッドブル系のチームである、ビザ・キャッシュアップ RB F1チームに角田裕毅が属し、ホンダのPUを搭載したF1カーで走っています。前戦のオーストラリアでは7位入賞し、ポイントを獲得。上り調子で鈴鹿にやってくる角田の、地元レース初入賞に期待してしまいます。
レッドブル系チームとはいえ、シャシーデザインを完全コピーすることは規定で禁止されているため、RBも自分たちでF1カーを開発しているのは他チームと同じ。今季は昨年までのレッドブルを模倣するコンセプトで戦っていますが、他チームとの差が一層縮まっているため厳しい戦いが強いられています。そんな混戦模様で、角田が毎戦活躍を見せられるかにも注目です。そして、その角田の去就先も含め、現在のF1で注目されている事柄が各ドライバーの来季以降の契約です。
■ルイス・ハミルトン移籍の影響
今季はF1本来のレースの楽しみに加え、ドライバーのストーブリーグも楽しみのひとつになってしまいました。誰が将来的にどのチームに行くのか、シーズンが始まったばかりにも関わらず来季以降のシート争奪戦はすでに始まっています。
すべての発端は、7度のチャンピオンを誇る現役最速ドライバーのひとり、サー・ルイス・ハミルトンのフェラーリ電撃移籍発表でした。24年末で現在のメルセデスからフェラーリへ移籍することが、シーズン開始直前のタイミングで発表されました。F1業界はこの突然の発表に騒然となり、そこから25年に向けてのドライバー争奪戦“ストーブリーグ”が始まっています。
なぜこんなにもストーブリーグが注目されるかといえば、今季いっぱいで契約が終了となるドライバーが多くいるからです。その数、全チーム20名中14名。ただでさえ今年は盛り上がるとはいわれていましたが、予想より早まったハミルトンの移籍(25年までの契約を早期終了した)により、パドックにはさまざまなウワサが流れているようです。
24年3月現在で、25年以降のシートが決まっているのは、
マックス・フェルスタッペン(レッドブル)
ジョージ・ラッセル(メルセデス)
シャルル・ルクレール(フェラーリ)
ルイス・ハミルトン(フェラーリ)
ランド・ノリス(マクラーレン)
オスカー・ピアストリ(マクラーレン)
以上の6名。あとは誰も決まっていません。
注目はやはり、メルセデスの後任。25年以降の契約が決まっていないドライバーのなかには、チャンピオン経験者のフェルナンド・アロンソ(アストンマーティン)のような大物もいます。そしてここにきて、契約が残っているはずのフェルスタッペンも移籍のウワサが流れてきました。もう一つのメルセデスのシートが誰になるのか、ここが決まればほかのチームも一気に決まっていくでしょう。通常は毎年夏以降に活発化するストーブリーグですが、今季はいつ大型契約が発表されるかわからない状況だということです。
■26年新規定がドライバー市場にも影響
なぜ今季だけがストーブリーグの開始が早いか。なぜハミルトンはこんなに早いタイミングで移籍を決めたのか。それは26年からF1の規定が大きく変わることが影響していると予想されます。
現在のF1の動力源はエンジンとモーターのハイブリッドですが、モーターはあくまでも補助的な動力。しかし、26年規定からはエンジンとモーターの出力配分が50:50となります。よりモーターとバッテリーの高性能化が求められてきます。現在はホンダ、メルセデス、ルノーの3社がPUを供給していますが、26年からは新たにアウディとフォード+レッドブルの2つが新規メーカーとして参戦をし、ますます競争は激しくなります。
25年シーズンは新規定の前年となるだけでなく、当然26年新規定マシンの開発期間にも重なります。ドライバーを交代するのなら、前年から開発に携わりクルマの方向性を決め、新規定でスタートダッシュを決めたい。どのチームも考えることは同じだということです。
ハミルトンは、前回エンジンからPUへと変わった14年の規定改正時も、前年の13年に当時のマクラーレンからメルセデスへ移籍しました。その後のメルセデスの無双っぷりは、ハミルトンの6度のワールドチャンピオン獲得と、メルセデスのコンストラクターズタイトル8連覇という結果を見れば明らか。ハミルトンが早いタイミングで移籍を決めたのは、この13年の移籍での成功があったからでしょう。
ドライバーとチームとの早期連携がプラスになることは、どのチームも周知している事実。これからストーブリーグは活発に動くでしょう。注目は前述のアロンソです。現在43歳と、F1では最高齢となるベテランのアロンソですが、その速さは衰え知らず。クルマの開発力も含め、どのチームも喉から手が出るほど欲しい人材です。当然、メルセデスも獲得を狙っているでしょう。現在はアストンマーティンに所属していますが、F1ドライバーを今後続けるのか、それとも引退するのか、それも悩んでいるとアロンソ本人の口から語られています。
■角田の行き先にも注目
アロンソのキャリアが継続となると、第1候補は現在のアストンマーティンとなることも本人がコメントしています。その理由の一つとして現在のチャンピオンPUであるホンダが、26年からアストンマーティンへのワークスPU供給を決めていることが挙げられます。メルセデスからカスタマー供給されている今の状況でさえ、ワークスのメルセデス本体よりもいい成績を残すことも見られるほど、急成長を遂げているアストンマーティン。アロンソとの契約がはたして延長できるのか。その結果次第で、ほかのドライバーの行き先が大きく変わっていくでしょう。
日本のファンにとっては、ホンダ出身のドライバーでもある角田裕毅がどこに向かうのかも気になるところ。レッドブル育成の出身ということもあり今はレッドブル系列に所属していますが、この先レッドブル本体のF1に乗れるかは保証がありません。そんななか、アストンマーティンへの移籍もウワサされ始めています。
しかし、これもアロンソの去就次第。アロンソがもしアストンマーティンを離脱すれば、角田のような若くて実績のあるドライバーは真っ先に確保されるでしょう。レッドブルも、もしフェルスタッペンの離脱があれば角田を昇格させたいと考えるはずです。はたしてどのチームに向かうのか。角田の今後にも注目です。
■来たる新規定に向けて
このようにF1界全体が、26年への大改革に向けて大きく舵を切り始めています。マシン開発もドライバー市場も、これから徐々に明らかになっていきます。新規でアウディも参戦を始める26年の新しいF1に向けては、この24年シーズンからすでに戦いは始まっているといえるでしょう。
アロンソや角田のほかにも、今季でフェラーリを追い出される形となったオーストラリアGPのウイナー、カルロス・サインツ、ワークスチームのはずなのに低迷を続けているアルピーヌの2名、エステバン・オコン、ピエール・ガスリーなど、去就が注目される実力派ドライバーも多いです。
今季は例年よりも見どころの多い、F1。シーズンの行く末をしっかりと見ておき、26年以降の展開を予想するというのも楽しみ方のひとつかもしれません。
<文=青山朋弘 写真=レッドブル/フェラーリ/メルセデスAMG>